隣の席の同僚の体臭がつらい。でも本人に言えば深く傷つけてしまうし、我慢を続ければ自分の集中力が削られていく——「スメルハラスメント(スメハラ)」と呼ばれる職場の臭い問題は、言った側も言われた側も傷つきやすい、とてもデリケートなテーマです。

この記事では、なぜスメハラ問題が難しいのかという構造から、角が立たない対応の手順、気になる側・指摘された側・管理職それぞれの立場でできること、やってはいけないNGまでを整理しました。医療現場という「密に人と関わる職場」で多職種と働いてきた筆者の経験も踏まえて、誰かを排除するのではなく、問題を解決するための考え方をまとめています。

スメハラ問題が難しい3つの理由

窓を開けたオフィスのデスクとサーキュレーター(職場のニオイ環境改善)
言えない・我慢するの二択ではなく、第三の道から始めましょう
スメルハラスメント問題が難しい3つの理由(本人が気づけない・人格攻撃・体質や病気)
図1:スメハラ問題が難しい3つの理由

1つめは、本人はほぼ気づいていないこと。人の嗅覚は同じニオイを嗅ぎ続けると感じなくなる性質(嗅覚疲労)があり、自分の体臭・口臭・柔軟剤の強い香りには本人がいちばん鈍感になります。「わざと」ではなく「気づけない」のです。

2つめは、指摘そのものが人格攻撃と受け取られやすいこと。仕事のミスと違い、ニオイは身体そのものに関わるため、伝え方を誤ると深い傷とハラスメント紛争の火種になります。3つめは、原因が本人の努力の範囲を超えていることがあること。体質、加齢による変化、内臓や皮膚の病気、服用中の薬、食文化——「ちゃんと洗えば済む」とは限らないからこそ、責める発想では解決しません。

この3つの構造を頭に入れると、「本人に直接言う」がいかにリスクの高い手段かが見えてきます。

角が立たない対応4STEP|いきなり本人に言わない

角が立たないスメハラ対応4STEP(記録・環境・周知・窓口)
図2:角が立たない対応4STEP(いきなり本人に言わない)

STEP1は記録と整理。「いつ・どんな場面で・どの程度困っているか」を感情抜きでメモします。窓口に相談するときの材料になり、自分の受け止めが過敏になっていないかの確認にもなります。STEP2は環境での緩和。換気の改善、卓上扇風機やサーキュレーターの向き、空気清浄機の設置、席替えのタイミング活用など、誰も傷つけずに今日からできる対策は意外と多くあります。

STEP3は仕組みでの周知。「夏場の身だしなみ・ニオイケアについて」のような全員向けのアナウンスやポスターは、特定の個人を名指しせずに気づきを促せる定番の方法です。STEP4が窓口への相談。それでも解決しない場合は、上司・人事・産業医といった「伝える役割を持つ人」を経由します。直接対決を避けるのは逃げではなく、本人の尊厳と職場の関係性を守る合理的なルートです。

どうしても自分で伝えるしかない場合

小さな職場などで窓口がない場合は、①1対1の場で②「体調を心配している」枠組みで③ニオイの種類を限定して短く、が原則です。「最近疲れてない?無理してない?」という健康への気づかいから入り、「タバコのあとだけ少し気になるかも」のように場面を限定して伝えると、人格全体への否定と受け取られにくくなります。

立場別・スメハラ対応マップ

立場別のスメハラ対応マップ(気になっている人・指摘された人・管理職)
図3:立場別・スメハラ対応マップ

指摘された側|まずセルフチェックと基本ケア

もし自分が指摘されてしまったら、ショックで当然です。ただ、指摘してくれた事実は「気づくチャンス」でもあります。まず体臭の原因と対策ガイドで自分のニオイのタイプを整理し、30代以降の男性なら30代男性の体臭ケア、年齢による変化が気になるなら加齢臭の原因と対策を。口臭は自分では分かりにくいので口臭セルフチェックから始めてください。毎日の基本は入浴時の洗い方とデオドラントボディソープ、そして汗を吸った服を放置しないこと。ニオイの多くは「体×衣類」の掛け算なので、服の臭い対策も併走すると効果が出やすくなります。

そして大事なこと——ケアをしても変わらない、あるいは急にニオイが変わった場合は、皮膚や内臓の病気が隠れていることもあります。恥ずかしいことではないので、皮膚科や内科で相談してみてください。

管理職・人事|「個人の問題」にせず仕組みで守る

管理職の鉄則は、公開の場で注意しない・全体ルールとして扱うの2つです。服装規定に身だしなみ・香りの項目を加える、夏場の前に全体アナウンスをする、個別に伝える必要がある場合は1対1で健康配慮の文脈から入る。強い香水や柔軟剤も含めて「無臭に近づける配慮」を全員のマナーとして提示すると、特定個人への攻撃になりません。産業医がいる職場なら、健康面の確認を兼ねて面談につなぐのが最も安全なルートです。

スメハラ対応のOK・NG

スメハラ対応のOK・NG(本人に直接言う・陰口はNG)
図4:スメハラ対応のOK・NG(目的は排除ではなく解決)

NGの筆頭は「臭い」と直接言うこと・陰口・SNSへの投稿。本人の尊厳を傷つけるだけでなく、あなた自身がハラスメントの加害側に立ってしまうリスクがあります。本人の机にこれみよがしに消臭剤を置く「当てつけ」も逆効果。気づいた本人が受けるダメージは直接言われるより大きいこともあります。

OKの軸はシンプルで、「個人を攻撃せず、仕組みと環境で解決する」「健康問題の可能性を忘れない」の2つ。ニオイの問題は、責める・我慢するの二択ではなく、環境改善という第三の道からほとんどの場合は緩和できます。

職場でできる環境改善|今日からの第三の道

サーキュレーターや空気清浄機など職場のニオイ環境改善アイテムのイラスト
換気・空気清浄機・風の工夫。環境改善は誰も傷つけません

具体策としては、①換気の見直し(対角の窓・ドアを開けて空気の通り道を作る)、②空気清浄機(脱臭フィルター付き)の設置、③デスクファンの風向き調整、④会議室・更衣室など密になる場所の消臭(タバコ臭がこもる部屋の対策も参考に)、⑤フリーアドレスや席替えの活用。夏場は特にニオイがこもりやすいので、部署単位で「夏の空気改善」として提案すると、誰も傷つけずに実行できます。

よくある質問(FAQ)

スメハラは法律上のハラスメントになりますか?

体臭や香水を直接規制する法律はありませんが、職場環境配慮義務の観点から、企業が対応を求められるケースは増えています。逆に、ニオイを理由にした過度な攻撃や排除は、いじめ・パワハラと評価されるリスクがあります。

柔軟剤や香水の「良い香り」もスメハラになりますか?

なります。本人には心地よい香りでも、強すぎれば周囲には負担で、化学物質過敏症の人には体調に関わる問題です。香りものは「半径1m以内でほのかに分かる程度」が職場のマナーの目安です(香水のつけ方マナー参照)。

在宅勤務明けで自分のニオイが不安です。

出社前のシャワー・襟元と脇の重点ケア・着る服の汗臭リセットの3点で大半はカバーできます。不安が強い場合は信頼できる家族に確認してもらうのが確実です。

同僚のニオイを上司に相談するのは告げ口になりませんか?

なりません。直接指摘して関係を壊すより、伝え方を工夫できる立場の人に託す方が、本人のためにもなります。相談時は「困っていること」と「本人を責めたいわけではないこと」をセットで伝えると建設的です。

関連記事

まとめ|責めずに、仕組みで解決する

スメハラ問題の本質は「気づけない本人」と「言えない周囲」のすれ違いです。直接の指摘は最後の手段と考え、記録→環境改善→仕組みでの周知→窓口相談の順で、個人を傷つけないルートから試してください。

そして自分が指摘された側になったら、それは改善のチャンス。セルフチェックと基本ケア、必要なら受診——ニオイの悩みのほとんどには、ちゃんと打つ手があります。